【覚書】思想家ドラッカーを読む―リベラルと保守のあいだで

著者:仲正 昌樹

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ドラッカーの人生を丁寧に追いつつ、その時々の世界情勢や思想家を紹介しながら、ドラッカーのマネジメント論に至る経緯が理解できる。

 

ネタばれ的に大雑把に影響を受けた人物を挙げれば、

  • 金融市場の存在、役割を発見したケインズ
  • 経済が発展していくためには、(金融政策ではなく)技術革新によって収益が増加することが必要不可欠であるとしたシュペンター
  • 資本主義が破壊した共同体的繋がりを、金融市場ー富の再配分ー相互扶助により回復しようとしたポランニー
  • 脱宗教家、個人主義といった啓蒙思想に対して、法による秩序の回復を目指したシュタール
  • フランス革命による合理主義的計画主義に対し、慣習の重要さを説いたバーク

などである。一見矛盾するような思想群から取捨選択し、それらを融合させて独特な価値観を作り上げたことが分かる。

 

経済面における備忘録

1. ケインズの功罪

ケインズ以前は財産、サービス、労働などから構成される実体経済しか理解されていなかった。ケインズは金融市場(貨幣)の存在を見出し、それが過去からの負債と未来への希望に影響されることを理論化した。未来への希望とは、例えば将来への不安があれば消費を控えるため、経済が停滞するといいたことである。このように、経済においても人々の心理面が重要であることを説いた。

よってケインズは不況の際には低金利財政赤字により信用を拡大させ、経済を浮上させる政策を提言、実行している。この政策は金融危機以降も用いられている点で、未だに現役である。

しかしながら、歴史を紐解けばケインズの政策は実を結ばず、格差拡大、経済停滞は悪化し第二次世界大戦へと突入していってしまう。これは結局の所、貨幣の量を増やしただけでも消費は増えず、貯蓄に回ってしまったことに起因する。この現象は現在の世界でも見られ、アベノミクスでも消費が微増しかしない・新しい産業が生まれない、という見本が日本である。

また、このように記載するとケインズは計画経済を組織化しているようにみえるが、ケインズ自身は政府が市場に介入することに対し否定的である。ただ、資本主義経済の本質的な脆弱さと人為的に回復することの必要性を主張しただけである。

2. シュペンターの発見

ケインズの経済学の問題は、静的な均衡を仮定した点である。実際の経済は常に環境や要素が変わり続ける動的で不均衡な状態である(機械的でなく生物学的)としたのがシュペンターである。その中で経済が発展していく(人々が未来への希望を感じる)にはイノベーション(技術革新)による均衡の破壊(生産性の向上)ことが必要であるとした。そのためにも起業家精神が重要であることを説いた。

 

ドラッカーによるイノベーション、企業家戦略

イノベーションの七つの機会

  • 予期せぬ成功と失敗を利用
  • 現実にあるものとあるべきものとの差を探す
  • ニーズを見つける
  • 産業構造の変化を知る
  • 人口構造の変化に注目
  • 経済、政治、教育における認識の変化を捉える
  • 発明発見などの新しい知識を活用

四つの経営戦略

  • 総力戦略(Fustest with the Mostest)
  • ゲリラ戦略(Hit Them where They Ain't)
  • ニッチ戦略(Ecological Niches)
  • 顧客創造戦略(Customer Creative Strategy)

総力戦略は、業界のトップを狙い、可能であれば市場の独占を目指す。

ゲリラ戦略は創造的模倣戦略(創造的破壊を最初に行った者を良く学び、より完成度の高いものor安価なものを出す。)と柔道戦略(老舗企業が馴染みがない新規の商品や技術をいち早く出す)がある。

ニッチ戦略は関所戦略(技術的ネックになっていたものに特化)、専門技術戦略(特殊な部品の製造技術を磨く)、専門市場戦略(特殊な性格の市場に関する専門知識を駆使)がある

顧客創造戦略は、効用戦略(顧客が目的を達成するうえで効用の持った製品を作り出す)、価格戦略(細かく価格を設定する)、事情戦略(顧客の事情を良く知って対応)、価値戦略(価値のあるものを作る)がある

これに当てはまる企業に投資してみる?

 

感想

ドラッカーに興味を持ち、マネジメント論含め、思想を学んでみたい。現在は情報化社会でFAANGやスタートアップの多くはドラッカーが想定していた企業の在り方と異なる印象もある。これらの企業と社会の関わりをドラッカー的な視点で考察することが今後は大事だと思う。

 

最後に印象に残った箇所を引用。

彼ら(ナポレオン戦争後のプロイセン)は、法と教育に基づく非政治的な政府(an apolitical government)とともに、リベラルでありながら非政治的な世界("liberal" but apolitical sphere)を欲していた。

 

これは、経済・社会生活の面で各人の行動の自由が最大限に認めらる一方で、法治国家によって政治体制は比較的安定していて、市民たちが権利のために激しい戦いを繰り広げる必要が無く、ましてや、自由や権利のために政治に参加するよう圧力を受けることが無い状態(一般市民は政治に関心を持たなくても良い)のことである。

高度経済成長期の日本の企業人はこんな感覚だったのではないか。