【書評】世界経済の三賢人

原題:The SAGES (Warren Buffet, George Soros, Paul Volcker, and the Maelstorm of Markets). 

チャールズ・モリス(訳 有賀裕子

https://www.amazon.co.jp/%E4%B8%96%E7%95%8C%E7%B5%8C%E6%B8%88%E3%81%AE%E4%B8%89%E8%B3%A2%E4%BA%BA-%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%BA%E3%83%BBR%E3%83%BB%E3%83%A2%E3%83%AA%E3%82%B9/dp/453235403X

 

題名にある通りバフェット、ソロス、ボルカーの三人の伝記と仕事振り、哲学を紹介し、最後に資本主義とは何かについて語っている。

 

一貫して、経済学者、ウォール街、政府が如何に間違ってきたかを記しており、全編に渡って著者の怒りを感じる。

表面的な成功を紹介し、儲かるための手法を説明する投資の本に溢れている中、本書はソロスが如何に頻繁にマクロ経済を読み間違えたか、企業がどんな風に不正会計をして株価を水増しするか、という点を多く紹介しており、投資で成功する困難さを包み隠さないので大いに勉強になった。

ボルガ―がFRB議長の際には、時の政権や議会から常に金融緩和の圧が掛かっていたとの記載が度々出てくるが、これは今のトランプ大統領とパウエル議長との関係と同じで、FRBが政治から独立することは難しいことを語っている。ボルガ―のような高潔な人物が本来はFRB議長に選ばれるべきだが、多くの場合大統領は御しやすい人物をFRB議長に据えることを思うと、制度的に欠落しているように思える。

 

最後の章では経済学がいかに間違っているかを論理的に分かりやすく説明している。ケインズより後は、経済を数学・物理の法則で理解しようとする試みが多くなされてきたが、その主流学派は根本的に間違ったことしか言わなかったことが良く分かる。日本の学者は御用学者で政府に都合の良いことしか言わないので害しか無いが、米国の経済学者は積極的に自らの(間違った)理論で政府を洗脳し、政治の方向性を無理やり決定づけてしまうのも困ったものだと思う。本書は金融危機(2009年)直後に執筆されているが、この時から経済学が一切進歩していないようにも思え、誠に遺憾である。

 

この本は、ウォール街、企業が短期的な利益を追求するあまり不正を頻繁に働くことや、国連などの機関の腐敗も述べられている。このような金融業界で、いかに公平に誠実な人々が貴重かが良く分かる本であるし、また今後も滅多に現れないことも理解した。

 

最後に、本書は短い中でも広範な内容をカバーしているとはいえ、債券に関する記載が一切ない点は留意する必要がある。また、現在世界で最も資産を保有しているヘッジファンドは軽量経済学を駆使したbridgewaterであるし、現在のbond kingは数学出身のJeffrey Gundlachである。要は正しい使い方をする、ということなのであろうが、数式を使いこなせる人物はごく僅かであることを物語っている。